大阪高等裁判所 昭和35年(く)29号 決定 1960年6月17日
少年 T
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は抗告申立人の長男である少年Tの今度の非行々為は勤め先の先輩○村某その他の成年者が少年を悪い面に利用してなさしめたものであつて本人から自発的に行つたものは一つもなくその被害者も抗告申立人の知人や本人の知合等に限られ未知の人には少しも迷惑をかけておらず、しかも各被害者には抗告申立人において被害を弁償し宥恕を得ているのである。今度の非行が本人の意志薄弱によるものであることは否み難いが本人自身已にこの点を十分自覚しており現在では二度とこのようなことをしない旨義父に対し固く誓約しているので実母である抗告申立人としても今まで以上の愛情をもつて本人の保護に努力したいと考え新しい家に移つてよい環境を作り今後は自分達の手許において正業に就かしめ十分責任をもつて保護監督に当りたいから本件抗告に及んだというのである。よつて右少年に対する本件保護事件記録及び少年調査記録について検討するに少年は昭和三二年一二月強盗、窃盗、詐欺、恐喝等の非行により初等少年院に送致され昭和三四年二月仮退院となつた非行歴あるにかかわらずまたまた本件各非行に及んだものであつてしかもその内容は窃盗三回、詐欺五回、私文書偽造同行使各二回住居侵入一回というように多種多様に亘り単なる偶発的のものとも見られずこれまでの生活歴、家庭環境、等から考えると今回の非行が同輩の誘惑ないし使嗾によるとしても相当高度の悪性が認められる少年に対してはこの際施設に収容して矯正教育をしなければ本人の更生は到底期し難いものといわざるを得ない。これと同趣旨の原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから棄却すべきである。
よつて少年法第三三条第一項に従い主文のとおり決定する。
(裁判長判事 小田春雄 判事 山崎寅之助 判事 竹中義郎)